2012年8月15日水曜日

クリック進行と音声表現との関係について

  クリック進行と音声表現との関係について。


  現在の一般的なPCアダルトAVGでは、プレイヤーの一つのクリック操作に一対一的に対応して一つのパラグラフテキストが、すなわち一人の登場人物のひとまとまりのテキスト及び音声台詞またはひとまとまりのモノローグテキストが、その都度直前のものを更新(消去)しつつ出力されていくのが通例である。このような斉一な進行は歴史的様式的にも構成上の機能的事情からもインタラクティヴィティに照らしても一定の合理性があると言えるが、しかしそうしたone-voice-per-click的形態はけっして必然的なものではない。

  1)複数テキスト同時表示。文字表示基軸の多声性表現として最もオーソドックスなアプローチである。『プリンセス小夜曲』以降のすたじお緑茶作品の多重フキダシ表現と並んでその最もブリリアントな達成として数えられるべき『FESTA!!』、そしてその他にもいくつものブランドによって度々試みられている。その最も先駆的なものは、『さよならを教えて』における主人公の迷妄としての多重台詞表現――同一キャラクターが二人に分裂してそれぞれ別個の台詞を喋り出す場面――に見出される(cf. 演出論Ⅲ章2節6款)。
  なお、クリック操作に対する完全な一対一でなくとも、初期LittlewitchのFFD表現や、『らぐな☆彡サイエンス』(あるいは『Like Life』もそうだったか)における半拍遅れのツッコミ表現のような形でも、テキスト多重表示は活用されている。

  2)テキストと音声の二重表現。テキストで出力される科白の話者と、音声で出力される背振の話者を、それぞれ異なる登場人物に割り振って同時に出力させるもの。こちらは音声出力寄りのポリフォニズムと言える。その最も初期の、そして今なお最も洗練された表現の一つである『Forest』(ここではテキスト更新と音声出力が必ずしも同時には発生せず、その制御された時間的落差の中に劇的緊張が鮮やかに立ち現れていた)から、『えむぴぃ』のハーレムコメディの猥雑な賑やかさ(全てを聞き取ることのできないほどの、そして主人公に向けられた発言ですらない、何人ものキャラクターによる同時科白)に至るまで、そしてその中間に存在する『この青空に約束を―』の洒脱な使用例や『SEVEN-BRIDGE』のいささか作為的でぎこちない例あるいはBISHOP作品におけるアダルトシーンのBGV演出も含めて、様々なスタイルが意欲的に試みられてきた。cf. [ http://cactus4554.blogspot.jp/2011/10/blog-post_6270.html / http://cactus4554.blogspot.jp/2011/09/blog-post_203.html / http://twilog.org/cactus4554/date-101121 ]

  3)クリック進行それ自体のさらなる分節化。ALcot(『幼なじみは大統領』以降)、Clochette、ゆずソフトに代表されるように、1クリック=1科白=1音声ファイルの時間進行の内部で複数の視覚的演出を連続的に行うことにより、クリック進行を顕微鏡的に拡大し細分化してプレイヤーに経験させるものとなっている。これらの作品にあっては実際には1クリック単位の内部での話者の同一性及び単一性は基本的に維持されている――それゆえ一見するとけっして多声的ではない――のだが、しかし、進行単位としての「クリック」をゼロにするドラマティックモード(※オートモードの一種)に対して外形的には正反対のアプローチでありながら結果的にはきわめてよく似た、連続性の感覚に到達しているという点で、この文脈上で言及されるべき価値があると考える。cf. [ http://cactus4554.blogspot.jp/2011/09/blog-post_3552.html ]

  4)SLG作品におけるマルチアクター表現に相伴われた多声的な場。複数のキャラクターがそれぞれ別個の行動原理及び目標を持ちつつ同一の空間内で自由に行動し相互作用するシミュレーション空間は、しばしば音声の助けを借りて表現される、あるいは、複数の音声を展開していくためのフィールドを提供する。その方向性を最も先鋭的に突き詰めているのが、『巣作りドラゴン』(主人公の住まう洞窟に、財宝を狙う冒険者たちが侵入してくる)や『雪鬼屋温泉記』(主人公の経営する温泉旅館で、宿泊客やスタッフが様々な行動と認識と相互作用を持つ)におけるオート進行の場面である。cf. [ http://twilog.org/cactus4554/date-100409 ]

  (2012年6月13日:公開。同年8月15日:単独記事化)

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