2013年2月4日月曜日

FAVORITEブランドのキャラクター着彩について

  FAVORITEのキャラクター着彩についてのごく短い実例検討的思考。
  以前の記事「FAVORITEブランドの美術設計について」の『星空のメモリア』編のような感じで。


  何度見返しても、FAVORITEがどうしてこんな良い絵を実現できているのかが分からない。その美術設計全体に関しては以前に概括的なコメントを試みていた(上記記事)が、今頭を悩ませているのは特に人物部分の塗り。おおまかに言えば「アニメ塗り(セル塗り)」と呼んでしまえそうな、つまりグラデーション表現のほとんど無いフラットな彩色で、少ない色数で比較的単純に大きく塗り分けしているのだが、アニメ塗りがしばしば伴われるような欠点――空疎感、平板さ、艶不足、立体感欠如、あるいは(多分に偏見に基づくが)手抜きの印象――を完全に免れているというのが凄い。その理由として考えられる技術的要因は、1)下絵(線画)自体が、立体造形としても、服飾の描き込みについても、正確に描けている点、2)影指定が適切になされており、それがアニメ塗りの利点を活かしているという点、3)色彩設計(つまりパレット指定)が繊細になされている点、4)グラデーションが無いわけではなく、塗り分けられた大きな面に対して緩やかに上品な仕方で変化が与えられているという点、5)光源表現の取り込みや背景部分とのコントラストが意識されていること(前記記事参照)、といったところだろうか? もちろんこれらはそれぞれ相互に密接に関連するものであり、そして連関することによってよりいっそう高い効果をあげている。
  なお、ALcot、OCERDRIVE、ケロQなど、アニメ塗りに傾斜した彩色を行っているブランドはFAVORITEの他にもいくつか存在する。


『星空のメモリア』
(c)2009 CROSSNET / FAVORITE

(図1:)頭髪、肌(顔面)、制服のいずれも、非常に単純化されたかたちで斉一に彩色されているにもかかわらず、豊かな奥行きを、確かな仕上がりを、そして得も言われぬ鮮やかさを感じさせる。原画の硬質な線を適度に残しつつ、人物部分の輪郭をはっきりと切り出しており、そしてそのダイナミックな逆光構図を生かすように適切な色選択がなされているからであろう。

(図2:)この一枚絵も、人物部分の塗り分けは極端に簡略化されている。一般的なPCゲームCGであれば、頭髪の塗り分けはもっと細かく、そしてツヤ表現(いわゆる「天使の輪」)も描き込んでいたであろう。本作では、その代わりに、左上から右下へ掛けてごく微妙なグラデーションを掛けることで、画面を単調さから救いつつ、プレイヤーの視線を画面左上(口元)へと自然に誘導し、さらにこの画像全体に上品で神秘的な印象を与えることに成功している。

(図3:)カメラの近さと仰角構図の多用(図1、図4と共通している)、演出的にデフォルメされた背景部分とのすり合わせ(※まるで魚眼レンズで撮ったかのように水平線が湾曲している)、人物部分の躍動感溢れるポージング、はっきりした光源表現、ワンポイントとなる細部の緻密さ(ここではボール表面に付与されたリアリティ)が、一体となって画面全体に十分な力強さと明確に方向づけられた雰囲気をもたらしている。

(図4:)キャラクターの全身運動が心地良く描かれているだけでなく、服飾線画の細やかさと正確さも、ここでは重要な役割を果たしている。パフェの密度感ある描き込みのおかげで、画面全体がさらに引き締まったものになっている。良く見ると背景部分と人物部分の縮尺は多少ずれている(人物が大きすぎる)が、その大きさはそのキャラクターの存在感を強調することに寄与している。また、アニメ塗りの明快さは、そのパステル調の明るい色彩とともに、人物部分を背景部分から際立たせる作用も果たしている。

(図5:)ここまで述べてきたことがこのスチルにも当てはまっていることは、容易に確認できるだろう。宮沢ゆあなキャラに萌えるべきである。




『花と乙女に祝福を』 (c)2009 ensemble

  比較のために、同年発売の他社作品を見てみよう。現在のアダルトゲーム分野の一般的な彩色様式では、原画の線は完全に消去されており、残されるとしても周囲の色と馴染むように調整されている。頭髪部分のグラフィクスも、髪の房のまとまりごとに一つ一つ濃淡の陰影処理が施され、さらに頭部全体につややかな「天使の輪」が描き込まれている。


『桜吹雪』 (c)2009 Silver Bullet

  この作品では、衣服の皺表現やそれに伴う影表現は、非常に控えめなものになっており、塗り分けの境界線もしばしば柔和にボカされている。頭髪部分も同様に、手の込んだグラデーション陰影が何重にも施されている。FAVORITEの影表現がその明瞭なコントラストによってデザイン的な快さを発揮しているのとと、対照的なスタイルである。

『ましろ色シンフォニー』 (c)2009 ぱれっと

  現在の主流派の彩色スタイルの中でも、非常に完成度の高い着彩の一例。腰のリボンのあたりの繊細な照明表現や、質感豊かなフリル表現、深みのある瞳の塗りなど、見所は多い。頭髪や洋服も、基調となる部分は斉一に塗られているが、その上に様々な形で手が加えられており、そしてその重厚なグラフィックワークの中に原画の線は完全に解消されている。

  FAVORITEブランドのグラフィクス流儀の美質を他の流儀と対比的に要約しようと試みるなら、以下のように述べることができるだろうか。すなわち:
  アニメ塗りとの対比では、彩色様式の基礎的な近縁性の一方で、静止画CGならではの強みとして、1)その都度の構図の練り込みを行う余地があり、2)表現密度を細部の精密度(文字通り、物理的な細かさの意味で)に委ねることを可能にしており、3)高品質な背景による下支えを得つつ、4)演出的にコントロールされた照明効果との間の入念なマッチングを行うことができる、といった点にアドヴァンテージを発揮している。
  また、一般的な美少女ゲームCG様式との対比でいえば、とりわけ、各色の境界線をはっきりさせて大きくフラットに塗り分ける画風が、1)パステル調の明るい色調を使用することを可能にし、そしてそれらを効果的に見せることを可能にし、2)美少女ゲームならではの重要な点として、通常の様式で塗られた背景部分から人物部分を際立たせることに大きく寄与しており、3)さらに影指定が明晰かつ大胆になされていることによって、アニメ塗りの平板さをデメリットのままにさせず、むしろ画面全体に対して見通しの良さをもたらし、原画に内在していた躍動感をさらに賦活することに成功している。とりわけ上記図4の画像がこれらの特質を豊かに享受していることは、容易に見て取れるだろう。


※――「主流派の塗り」(つまりしばしば「エロゲ塗り」と称されるもの)という時、ここでは特に人物部分について、1)面のベース着彩は基本的に斉一に塗る(「ベタ塗り」)が、2)影部分とのコントラストはあまり強調せず、境界はボカし、3)頭髪、瞳孔、肌艶などの要所はかなり細かく塗り、4)下絵の線は消去し、人物の輪郭線も持たない(または残すとしても周囲の色と馴染ませる)スタイル、を指している。
  一般的な定義としてこれが妥当であるかどうかは分からない。文脈によっては、例えば5)原色またはそれに近い色を多用する、6)背景部分の彩色はしばしば異なったスタイルが採用される、6)多層に亘るレイヤー分割を前提とする、のような要素を加える必要があるかもしれない。

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