2013年5月15日水曜日

CG観賞モードの諸形態

  CG観賞モードの諸形態
    ――画像差分管理手法としての、そしてゲームシステムの反映としての――

  はじめに
  1. ういんどみる作品の鑑賞モード:多層的差分管理
  2. SkyFish作品の鑑賞モード:多層的差分管理の機能的整理
  3. Escu:de作品の鑑賞モード:システムと呼応した複合的差分管理
  4. ソフトハウスキャラとすたじお緑茶の鑑賞モード:一覧表示とその応用


  【 はじめに 】

  すでに00年代前半から(?)、立ち絵や一枚絵の差分数は急速に増加しており、そのため鑑賞モードにおいてもその機能性(一覧性、差分管理、操作性etc.)はユーザー利便性にとって重要であるにもかかわらず、立ち絵/イベントCG鑑賞モードは近年でもあまり機能的に洗練されていないものが散見される。サムネイルリストでイベントCG(群)の一つを選択してからは、クリックしてただ直線的に差分をめくっていくしかできない(戻ることもできない)という原始的なシステムは、残念ながら2013年現在でも存在する。他方で多機能で利便性の高い鑑賞モードを備えているタイトル/メーカーというと、ういんどみる(使用エンジン:CatSystem2)、SkyFish(エンジン:retouch/ExHIBIT)、Escu:de(独自エンジン。名称不明)、すたじお緑茶(エンジン:studio SELDOM Adventure System)などがある。


  【 1. ういんどみる作品の観賞モード:多層的差分管理 】

  ういんどみるの鑑賞モードについては、ブログudkの雑記帳の記事1枚のイベントCGに使われている差分は最高何枚?及び立ち絵の差分数(差分)は最高いくつ?が、『祝福のカンパネラ』の画像引用を伴った紹介を行っている。一枚絵では、差分移動のためのボタン群を表示しており(つまり差分めくりを戻ることもできる)、立ち絵鑑賞モードでも表情や服装などの各パーツをそれぞれ独立に差分変化させることができる。


  【 2. SkyFish作品の観賞モード:多層的差分管理の機能的整理 】

  SkyFish作品の鑑賞モードは、当初(2010年頃まで?)は、画面右下に差分変化のためのボタンテーブルを表示していた(下記画像『はるかぜどりに、とまりぎを。2nd story』を参照)。このボタンテーブルの上下及び左右は、それぞれ当該一枚絵の「大きな差分変化(ポーズ変化や服装変化など)」と「小さな差分変化(主に表情変化)」に対応しており(※どちらがどちらだったかは失念した)、それぞれ独立に変化させることができる。それゆえ、ボタンを上下左右にクリックすることによって、大きな差分変化と小さな差分変化を自由に組み合わせ、そしてそれらを双方向的に――つまり逆順に戻っていくことも出来る――変化させていくことができる。例えば、ポーズ差分13種類と表情差分31種類を持つ画像の場合であれば、組み合わせによる差分総数は最大で13*31=403パターンにもなる(※実際には全ての組み合わせが存在するとは限らない)が、この上下/左右ボタンによって、6+15=21クリック以内にその任意の差分形状に到達することができる。差分数が増えれば増えるほどそのメリットが発揮されるシステムと言える。機能的にも明快で分かりやすく整理されており、ユーザーにとっても非常に便利なシステムだった。
  その後のタイトル(下記画像『翠の海』を参照)では、ボタンテーブル方式から画面下部ポップアップ方式に移行したが、差分変化を大小2段階に振り分けて組み合わせで変化させるというその基本的発想は継承されている。また、画像拡縮演出を得意とするSkyFishでは、データとしての原寸画像はかなり大きなサイズ(ウィンドウサイズの2*2倍、あるいはそれ以上)で用意されており、鑑賞モードではイベントCGを原寸表示することもできる。

『はるかぜどりに、とまりぎを。2nd story』 (c)2010 SkyFish

CG観賞モード(立ち絵鑑賞を含む)では、右下に差分管理用のボタンが表示される。これによって、大量の差分を含む画像を、迅速確実明快にめくっていくことができる。中央の×印をクリックすれば、このテーブルを消去することもできる。
『翠の海』 (c)2011 SkyFish

本作では、画面下部にカーソルを移動させるとこのようなボタン群がポップアップする。上下/左右による2段階の差分管理だけでなく、ウィンドウサイズと異なる画像サイズの場合のスクロール移動(画面四方の薄い矢印)、そして画像原寸で表示することもできる(画面右下)。


  【 3. Escu:de作品の鑑賞モード:ゲームシステムと呼応した複合的差分管理 】

  Escu:deは、洗練されたSLGゲームデザインを次々に提示してきたブランドの実力に相応しく、鑑賞モードにおいてもその見識を示している。『ヒメゴト・マスカレイド』は、一部のイベントCGにおいても背景部分と人物部分の組み合わせを導入しており、その設計が鑑賞モードにも反映されている。CG鑑賞モードでマウスカーソルを画面下部に置くと、場所選択リストと差分管理ボタンがポップアップし、それらを任意に変化させることができる。人物部分の差分変化はマウスホイール(上/下)でも行える。
  本作は、ストーリーとしては主人公の女性恐怖症を克服するために学園内の様々な場所でヒロインと「触れ合う」ことを主眼としているが、ゲーム全体の骨格はこのブランド自身が得意としてきたシステマティックな調教SLGの伝統に棹さすものと考えられ、イベント群が独自のゲーム進行制御メカニズムによって管理されているだけでなく、個々のイベントも「場所」「ヒロイン」「状況」「進行度(その行為の到達段階)」「好感度等の個別フラグ」に基づいて造形されている。鑑賞モードもそれに対応して、「スキンシップ」イベントが段階毎に整理されており、CG鑑賞モードも背景部分を適宜分離できるようにしている。鑑賞モードの機能設計も、本編部分のシステム設計と連動して為されうるし、また為されるべきである場合があり、そして本作はその優れた見本となっている。
  なお、ヒロインが胸部を露出させる一部のイベントCGでは、ポップアップバーの中に「NIPPLE」ボタンが追加されており、ユーザーはその部分の隆起如何を任意に変化させることができる。いかにもアダルトゲームらしい、そして本作のバカゲー的側面をここでも匂わせるかのような、奇妙なシステムである。

『ヒメゴト・マスカレイド』 (c)2012 Escu:de

(図1:)画面左下の「BG SELECT」リストを押下することによって背景画像を変化させることができる。その都度様々な場所を選択してイベントを発生させる(調教)SLGならではの画面(画像)構築システムである。人物差分はマウスホイール(上下)でもめくることができる。
(図2:)「スキンシップ」イベントと称する大量の個別イベントは、「場所」「内容」「心理状態(純愛or愛欲)」「レベル」等に基づいて管理されており、そのことは回想モード上の配列及びタイトルにもはっきりと現れている。

  【 4. ソフトハウスキャラとすたじお緑茶の鑑賞モード:一覧表示とその応用 】

  シンプルな対処として、全ての差分画像をサムネイルで一覧に並べてしまうというのも、(イベントCGの総数が多すぎない場合には)有効だろう。例えばソフトハウスキャラのCG観賞モードがこのスタイルを採用している(――2002年発売のブランド第5作『アルフレッド学園』の頃から最新作[第19作]の『門を守るお仕事』まで、一貫してこの様式を続けている。エンジンはSystemAoi)。300~400枚程度であれば、スクロールバーでサムネイル一覧をスライドさせながら目当ての一枚をおおまかに発見するのには、とりあえず不足は無い。
   全差分を一覧表示するという発想を、もう少し整理して見やすくしているのが、すたじお緑茶の鑑賞モードである。『祝福の鐘の音は、桜色の風と共に』(2012)のCG鑑賞モードは、ヒロイン毎にページが分かれており、ヒロインを選択すると関連画像がサムネイル一覧の形で表示される。さらに、サムネイルをクリックすると、ページが遷移してその画像のすべての差分が一覧表示される。そしてその差分画像のサムネイルをクリックすると、その画像が全体表示される(――画像を全体表示した状態では、画面右下にEscu:deのものと同じような差分めくりボタンが表示される。マウスホイール操作によっても、差分をめくっていくことができる)。つまり、「キャラ一覧」~「画像一覧」~「差分一覧」~「画像全体表示」の4段階で構造化されていることになる。イベントCG鑑賞モードをヒロイン毎に区分するというアプローチは、とりわけ近年の純愛系AVGでは好んで採用されているものであるが、各画像について差分一覧のサムネイル表示を行うという本作の仕様はユニークであり、そして実際にも差分変化群を一目で見通せるというメリットがある。


  (2013/4/29公開。2013/5/15単独記事化)

0 件のコメント:

コメントを投稿